韓国では130万部。日本でも16万部を突破した『82年生まれ、キム・ジヨン』。
この小説が映画化され、ついに今週、映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本でも公開される。
『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年/韓国/118分)
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2020年10月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
詳しいあらすじや公開情報等は公式HPをご覧ください。
映画あらすじ
1982年に生まれたキム・ジヨン(チョン・ユミ)
大学の先輩だったデヒョン(コン・ユ)と結婚し、2歳になる娘がいる。それは子育てと家事に追われる毎日。
子供の頃から“女性”というだけで、どこか不公平で不公正な社会を生きてきたジヨン。大学まで出て仕事のキャリアもあるのに、今は育児も家事も背負わなければならない。次第に心が壊れていき、奇妙な言動を繰り返すように。
自分の症状に気づかぬジヨン
「再び働きたい」という思いを募らせ、夫デヒョンに相談する。
再就職先はあるが、ベビーシッターが見つからない。前途多難な状況だが、働くことを熱望する妻の姿を見てデヒョンは決断する。
自分が育児休暇を取ろうと―
ところが、釜山の実家にいるデヒョンの母親が許さなかった。
傷ついたジヨンは―。
*****
『82年生まれ、キム・ジヨン』はすでに仕事でコラムを書いているので、ここでは仕事と関係ない個人的な感想を書きたいと思う。
私がフェミニストではないことは先日UPした。
なので、フェミニストとは程遠い私の、小説と映画の感想になる。
キム・ジヨンはわりと恵まれた家庭に生まれ育っている。
父は公務員。後にIMF通貨危機の影響を受けるが、それでもひもじい思いはしていない。父親は退職金を多めにもらい、商売を始める。
そもそも賢い妻が投資目的で購入していたマンションを売却し、利益も出していた。
ただし、キム・ジヨンの姉のウニョンは、望んでいた仕事とは違う職業に就いている。それは教師だ。
進歩的な考えを持つ母親が強く勧めた職業だった。本来であれば、望んでいた職業に就くのが幸せだが、賢い母親は娘が自立して生きていけるようウニョンの背中を押した。ウニョンもやがて考えを変え、母親の言うとおりだと悟る。
小説に出てくるエピソードから想像するに、キム・ジヨンは器量もいい。
ソウルの大学に通い、両親の家に住んでいる。しかもカレ氏もできた。
母親は商売を拡大。父親が公務員だった頃より収入は増えている。
なのに、ジヨンは子どもの頃から家庭や学校でモヤモヤとした思いを募らせる。この世はなんて不公平で不公正なのか。一言でいうなら、女性であるがために受ける差別。
どちらかといえば恵まれた環境にあるジヨンでさえ、それを感じるってところが、いかに女性が生きづらい社会であるかを物語っている。
そうした思いは160ページを超える小説と比べると、映画ではやや軽めに描かれている。
そもそも夫のデヒョン役をコン・ユが演じているのだ。
イケメンで長身の夫は妻子に優しく、とても理解がある。こんないい夫はいないんじゃないかとさえ感じるし、むしろ育児休暇を提案する夫が痛々しく見えたりもした。
反対にデヒョンの同僚は「朝鮮王朝時代に戻りたい」「窮屈な世の中だ」とグチっている。
女性は窮屈に生きていた昔に比べ、今はかなり緩和されているのだろうが、その分、男性が窮屈に感じているのだろう。
その男性陣だが、小説ではほとんどの男性に名前がない。ジヨンの弟でさえ“弟”のまま。名前で呼ばれない。
映画に登場する弟ジソクはなんだかんだで姉を気遣っているし、わりといい子だ。
もしかしたら女性の観客を不愉快にさせたり、絶望的な思いを抱かせないよう、そこらへんは監督の配慮かもしれないが、小説と比べると映画には救いがある。結末も小説とは違っていた。
個人的には、小説には書かれていなかったシーンが印象的だった。
もうひとりの主人公である、ジヨンの母ミオク(キム・ミギョン)のシーンだ。
映画では母ミオクが自分の夫に対して怒りをぶちまけている。
ここで世の女性たちは拍手喝采だっただろう。
そこで父親もハッと気づくわけだが、これが現実だったらなかなかそうはならない。普通なら父親が激怒して修羅場になるはず。
悲壮感がより伝わるのは小説。希望を感じられるのは映画。
訳者の斎藤真理子さんは「小説がカルテで、映画は処方箋」という。
というわけで、どちらも不可欠。
映画は公開中止を求める男性陣の声を受けつつも昨年公開され、367万人を動員。予想以上のヒット作となった。
オススメ度 ★★★★☆
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