この一年見た映画の中でも一番印象的だった『声もなく』が今週から日本で公開される。
個人的には『KCIA 南山の部長たち』や『藁にもすがる獣たち』並みに面白く、一方の大作『新感染半島 ファイナル・ステージ』とは比べようもないほど心に残った。
スクリーンで見たほうがいい作品。コロナ禍ではあるけど、可能な限り劇場で見るべき作品だと思う。
『声もなく』(2020年/韓国/99分)
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2022年1月21日 (金)、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
詳しいあらすじや公開情報等は公式HPをご覧ください。
映画あらすじ
普段は鶏卵販売をしている二人の男。
口の利けない青年テイン(ユ・アイン)と、足の不自由なチョンボク(ユ・ジェミョン)。
二人は貧しさゆえ、犯罪組織からの下請け仕事を裏稼業にして生計を立てている。
それは死体処理
ところが、身代金目的で誘拐された11歳の少女を押し付けられる。
誘拐されたチョヒ(ムン・スンア)
テインは嫌がるが、結局、1日だけ預かることに。
ところが、トラブル発生
テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が始まる-
チョヒの親から身代金が支払われる気配はなく-
預かっただけなのに、意図せず誘拐犯になった二人
予期しない事態に陥ったテイン
ねじれた誘拐の行方は-
そこに救いはあるのだろうか。
*****
口の利けないテインと、足の不自由なチョンボク。
二人の体については特に説明されていない。テインについてはそれが障害なのか、意図的に話さないのかも判然としない。
また、裏稼業に行き着いた過程も不明。
それでも二人が信頼関係で結ばれていることは見て取れる。
死体処理の仕事をしていても、テインとチョンボクは決して悪人ではない。
中年男のチョンボクは宗教心を持っていて、仕事を与えられることに感謝している。テインにもそう言い聞かせている。
やっている仕事は犯罪でも、二人は鶏卵販売も裏稼業も仕事として誠実にこなしてきた。悪いことに手を染めている意識はなく、誘拐されてきた少女チョヒに対しても、彼らなりに気遣っている。テインは終盤でチョヒを守ろうとしている。
テインとチョンボク、そしてチョヒは社会から阻害されて生きている点で共通している。
束の間、疑似家族となるが、裕福な家に育ちつつも女児であるため差別されていたチョヒが時折見せた笑顔は嘘ではなかっただろう。
だが、このチョヒを見捨てることができず、テインとチョンボクは本当の誘拐犯になってしまう。
どんどん破滅へと向かっていき、用意されていたラストはあまりにも救いがなく、絶句した。私にはとても残酷な結末に思えた。
前半、Tシャツと短パン姿だったテインが終盤にスーツを着用。なんだか切ない。
この作品を制作したのはポン・ジュノ監督並みの監督作品かと思いきや、新人の女性監督の作品と知って驚いた。
よくもまぁ、こんな残酷なラストを用意したなーと。
笑いあり、ほのぼのとしたシーンありで、前半に引きつけておいて、最後は笑えない展開に。
障害、貧困、阻害、孤立、宗教、性差別、犯罪、、、たくさんの要素が詰まっているけど「お腹いっぱい」といった感じにはならない。この女性監督の次回作が今から楽しみ。
韓国では2020年10月に公開され、40万人を動員。
観客動員数はイマイチでも、作品に対する評価は高く、数々の映画賞を受賞している。
オススメ度 ★★★★★
ワンドゥギ(字幕版) ユ・アインといえば…の本当に好きだった作品(笑)。 藁にもすがる獣たち(字幕版) |